家具職人にとって工具は命です。
鉋(カンナ)だけでも用途に合わせて何十種類も使い分けます。
桐と樫では使う鉋が違います。
敷居を削る専用の鉋もあります。
仕事に合わせて鉋の形状を自分で変える場合もあります。
木材の種類、デザイン、削る角度など、状況に合わせて一つ一つ使う鉋を変えているのです。
鋸(のこぎり)もノミも用途によって使い分けが必要です。
様々な種類の中から適切な工具を選択し、一つの家具を作っているのです。
また、同じ鉋でも研ぎ方で切れ味も変わってきます。
鉋自体も使ううちにどんどん薄くなっていきます。
しかしながら刃が無くなるまで鉋を使い切れる熟練の職人は多くありません。
どうしても使っているうちに片減りが発生したり、衝撃を与えてしまったりして割れてしまうのです。
工具自体も安いものではありませんので、丁寧に整備し大事に使う必要があります。
鉋を見ればその職人の実力も分かるくらい、熟達した職人には工具に対してのこだわりがあります。
私の主な仕事は紙に書かれた設計図を形にしていくことです。
言葉で言うと簡単に聞こえますが、ミリ単位で設計したものを正確に立体として表現するところに難しさと面白さがあります。
材料も全部自分で用意します。
合板も自分で加工します。
図面を見ながら裁断し、加工し、組み立てていくのです。
工場によって、職人によって仕上がりも微妙に変わってきます。
そのため、名指しで職人を指名する受け主さんもあるぐらいです。
家具職人を続けているのは好きだからという一点に尽きます。
特に最近手がけている一点物の工芸品は利益を考えたら採算は合いません。
遊び心で試行錯誤しながら作って、その商品に価値を感じてくれるお客様がいる。
購入するお客様も喜んでくれて、売れたら私も嬉しい。
根本的にモノを作るのが好きだからこそ40年以上も木工職人を続けていられるのです。
我々の仕事は住宅メーカーや店舗設計会社や工務店からの注文が多いため、エンドユーザーと顔を合わすことが非常に少ない業態です。
だから買い手とダイレクトに繋がれるような木工製品や工芸品を作り始めました。
先日、蓮田市内の催し(まめなり市)で商品を並べられる機会がありました。
とはいっても初めて露店で売るわけですから値段の付け方もわからないし、いらっしゃいませという声もなかなか出せません(笑)。
慣れないながら呼び込みをしていたら、一人の若い女性が私の作ったちゃぶ台に興味を持ってくれました。
遠目で眺めたり、寸法を測ったりしながら悩んでいましたが、一旦諦めて帰っていきました。
なぜならそのちゃぶ台は3万円の値付けがしてあったのです。
いま考えるとお祭りで売るには高すぎる値付けですが、すぐに値引きをすると安売りするという噂が立つのでしばらくそのままにしていました。
そうしたらお祭りが終わる直前に、さっきの女性が手提げ袋を携えて戻ってきて「欲しいんです。でも値段が・・・。」とまた悩み始めました。
その熱意に感動して半額に近い値段で売りましたが自分としては大満足で、お客様も「大事に使います!」と喜んで帰っていきました。
この経験は私にとって大きな転機でした。
今まで顔の見えないお客様と接していましたが、このように心から自分の商品に惚れてくれるお客様に買ってもらいたいと思うようになったのです。
もしかしたら採算度外視になるかもしれません。
でも思いついたらやる。
それこそが私の人生ですし、家具職人としての誇りなのです。
注文家具製造「タカキヨ工芸」代表。
名門ホテルの家具・調度品などを取り扱う工房で20年以上腕を磨いたのちに独立。
以降、20年以上に渡り注文家具や木工製品を材料から一つ一つ手作りで提供している。