祠(ほこら)を作るためには様々な技術が必要になります。
シンプルな形状の祠ならば製図と木工技術のみで製作することもできますが、
屋根を銅板にしたいというお客様の希望があれば銅板を加工する技術が必要です。
模様を描いて欲しい、赤稲荷を作って欲しいという希望があれば塗装技術が必要になります。
このように様々な技術が組み合わさって、一つの製品が生まれているのです。
元々、私は檜風呂のメーカーで職人を務めていた経験があり、
なおかつ父親が大工だった関係で建築・木工技術は習得していましたが板金と塗装は完全に専門外でした。
しかしながら技術が無いので作れないというのは職人として恥ずかしいことです。
そこで板金は板金業の友人から、塗装は漆塗り職人の友人から基礎を学びました。
わからないことは専門の人間に教えを請う。
何ら恥ずかしいことではありません。
足りない技術は作りながら身につけていけば良く、後は応用として技術を組み合わせていくだけです。
囲炉裏の上に吊るす自在鉤(じざいかぎ)という器具があります。
先端の鉤に鉄瓶を掛けてお湯を沸かす時や鍋で煮物をする時に使うものですが、ただ鍋などを掛けるだけの器具ではありません。
囲炉裏は火力の微調整が難しいため、自在鉤を上下に動かし火からの距離を調節して火力調整を行います。
この自在鉤も工房大五郎では素材から一つ一つ手作りしています。
まず自在鉤の支柱に相応しい竹を探すのが一苦労です。
知人の保有する竹林や山林の中で自在鉤に適していそうな竹を探し掘らせてもらうわけですが、これがまた大変。
竹は地下茎が入り組んでいて、細い根っこが地下で絡まり合っているわけです。
周りの根や障害物を避けながら掘る必要があり、太い物では一本につき2~3時間ぐらいかかります。
30センチも掘れば十分だろうと目論んでいたものの、気付いたら1メートル以上掘っていたこともよくあります。
この竹は面白い仕上がりになりそうだとイメージしながら掘るのですが、好きでなければできない作業です。
掘り起こした竹は5年ほど乾燥させます。
乾燥させている間に割れが生じる場合もありますが、これも自然の芸術です。
一つとして同じ作品は作れないという事が面白さでもありますし、難しさでもあります。
竹の乾燥が終わったからといって組み立てて完成ではありません。
自在鉤のもう一つの主役である横木の魚の彫り物も、クスノキやホウノキの原木から彫刻刀で一体一体彫っていきます。
良い素材に手間と技術を盛り込んで一つの製品が完成していくのです。
囲炉裏・自在鉤・火棚製作販売「工房 大五郎」代表。
大工で培った木工技術を活かし、祠や囲炉裏、自在鉤など日本古来の建造物を中心に制作。
木工技術だけでなく、独自に習得した板金技術、塗装技術や彫刻技術を組み合わせてお客様の要望にあわせて提供している。