ブロンズ像修復に限らず、鍛造製品に使える塗料は100種類以上あります。
さらに銅粉や銀粉、真鍮の粉を溶剤と混ぜて塗料にする事もできますので、組み合わせ次第で色は無限に作れるわけです。
塗料自体は一般的なものですので、どこでも購入できます。
ただ色の組み合わせは職人それぞれの経験や目利き力が必要になります。
また、色を重ねることで、例えば青銅色の上に赤銅色を重ね塗りすることでまったく違う仕上がりに変わります。
重ね塗りは、色を重ねた時の完成形を知っていないとできませんし、イメージ力を鍛えるためには何百何千もの塗装経験が必要になります。
穴が開いた、腕が取れた、首が取れてしまったブロンズ像でもパテで穴を埋めたり溶接で接合したりして修復可能です。
曲がってしまった金属のオブジェも修復したことがあります。
丁寧に元の形状に戻し、その上からしっかりと塗装をすれば修理箇所の見分けはつきません。
単に塗装の技術だけでなく、鍛造という金属加工の仕事を経験していたからこそブロンズ像の修復が可能になっているのです。
ブロンズ像の修復はまず洗浄から始まります。
表面の汚れを濡らした布で丁寧に拭き落とします。
破損してしまっているブロンズ像はこの時点でパテで埋めたり、溶接で接合して修復してから塗装工程に入ります。
塗装は修復の最重要工程ですので、細心の注意を払って作業します。
基本的には黒色をベースにした下塗りを行ったのちに完成形に則した色を重ねていくわけですが、厚塗りをしてしまうとブロンズ像としての魅力や特徴が失われてしまいます。
厚塗りを防ぐためには刷毛に付いている塗料の8~9割は拭き落とし、刷毛一本一本に染み込んだ塗料だけを利用します。
この余計な塗料を拭き取るという工程が重要で、勿体無いと思ってはいけません。
刷毛自体も一体のブロンズ像で数本消費します。
丁寧に薄く何度も磨くことがブロンズ像修復には最善の方法ですので、必要な材料は惜しみなく投入しています。
ブロンズ像の修復で大切なのは完成形のイメージです。
自分の頭の中の完成図に沿って塗料を調合して最適な色を塗っていくわけです。
ただ、塗ると言ってもペンキのように直線的にムラ無く塗るのではなく、靴磨きのような雰囲気で塗料を薄く馴染ませていきます。
ブロンズ像には必ず凹凸がありますので、何回も塗料を馴染ませる必要があります。
直線ではなく刷毛を円状に回しながら丁寧に磨き上げるのがコツです。
最初は直線で撫でるような塗り方だったのですが、経験を積み自分で研究に研究を重ねるうち現在の塗り方に辿り着きました。
私には知り合いの塗師が五人居ますが、それぞれ塗り方が微妙に違います。
製品をひと目見ただけで誰が塗ったか分かるぐらい職人の技量や個性が出るのが塗装工程で、どの職人も塗装なら自分が一番上手いというプライドを持っています。
もちろん、私が一番上手ですけどね(笑)。
鉄・真鍮・ステンレス工芸品の製造販売をおこなうキャピタルアート代表。
繁華街の街頭イルミネーションやショールームのオブジェを中心とした意匠性の高い製品を提供していたが、独自の鍛造技術を活かしたブロンズ像修復およびメンテナンス業務を開始。
全国の美術館や個人宅のブロンズ像の修復依頼を受けている。