ニードルフェルティングで作った人形は布や革と違って継ぎ目や縫い目がありません。
私の取り扱うメインのテーマは人間と動物類を組み合わせた合成獣なのですが、縫い目が無いとすごく面白い作品に仕上がります。
ある日、漫然と図鑑を眺めていたらモンハナシャコという非常に美しいシャコを見つけました。
途端に頭の中で閃いてマーフォークという人間とシャコの合成獣を作成しました。
ただ、閃きは突然起こるわけではありません。
完成形や製作過程を考え抜くことにより、ふとしたきっかけで全てが繋がるのです。
夢の中でイメージが明確化することもよくあります。
そうはいっても実は作っている最中は苦痛なのです(笑)。
完成させないといけないというプレッシャーがだんだん強くなっていくからです。
特に大きな作品は制作期間も長くなりますが、だからこそ完成した時が一番の喜びです。
そして作品を見てくれた人の「次はなにを作るの?」という一言が次の作品を生み出す原動力になっています。
作品制作にあたり、ビーズやスパンコール、スワロフスキなどの素材を活用するアーティストも居ます。
ただ私はフェルトの質感にこだわりたいので、他の材料は使わないと決めています。
フェルトの魅力は何よりも色のバリエーションと色彩の柔らかさ、そして硬度の自在さです。
羊毛だけで、透明感や堅さ、やわらかさなどの質感をリアルに表現することが可能です。
青色のフェルトの上に白色のフェルトを重ねることで、単なる中間色ではなく覆うような柔らかい白を表現できます。
針で突けば突くほど瞳の質感を本物に近づけることができるのです。
モンハナシャコの合成獣(マーフォーク)を作るときもグラデーションにこだわりました。
そもそもモンハナシャコは極彩色の生物なのですが、極彩色を白色のフェルトで覆うことにより現実の生物と違った幻想的な作品に仕上がりました。
美しいグラデーションを描くことがニードルフェルティングの醍醐味であり奥深さです。
ニードルフェルティングは平たく言うと「羊毛人形」です。
しかしながら魅力的な作品を生み出すことで、単なる羊毛人形というジャンルを超えたニードルフェルティングの芸術に興味を持ってくれる人を増やすことができます。
私ができることは一つ一つ作品を完成させて展示していくだけですが、これからも人の心に残るような作品を創りニードルフェルティングという文化を根付かせていきたいと考えています。
ニードルフェルティングという芸術はまだまだ手芸の枠内でしかありません。
この手芸の枠から私が飛び出させたいというのが私の目標です。
羊毛人形というとメルヘンチックな可愛いものが多いですが、それでは手芸の枠を越せません。
私の持つイメージを具現化し、リアリティあふれる独自の世界観を世界に発信していく。
これこそが自分の使命だと思っています。
フェルトだけでリアルな作品を発表するアーティストは世界的にも珍しいですし、その独自性が私の存在価値だと思っています。
フェルトアーティスト。
フェルトアートの可能性に魅せられ、ニードルフェルティングの世界に足を踏み入れる。
リアリティさを追求する独自の作風が評価され、国立新美術館で毎年開催される「現展」にも作品が展示されている。
自分で作品を作る傍ら、ワークショップや小学校の課外授業等でニードルフェルティングの魅力を伝えている。