ニードルフェルティングで使う道具は針と羊毛だけです。
羊毛は表面が細かな鱗状になっており、この鱗を針で突付き絡ませ合うことで固まるという特性を持っています(フェルト化)。
この特性を利用し、単なる毛から様々な作品を形作っていくわけです。
私はこのニードルフェルティングの世界に入って10年経ちましたが、色の組み合わせや質感の出し方など日々新しい発見があります。
材料となるフェルトは染色されたものが一般的な手芸店で手軽に入手できます。
針も500円以下で購入できます。誰でも手に入れられる材料ですが、誰もがアート作品として完成させられるわけではありません。
自分の頭の中に完成図をイメージすること、その完成図を具現化する技術と経験、そして作品を仕上げるんだという強い意志と根気が必要になります。
展覧会に並べるような大型の作品を仕上げるには半年から1年の期間がかかります。
その長い期間、完成形を目指して一刺し一刺し毛を固めていくのです。
私の作品は、人型と動物を掛け合わせた合成獣が多い事が特徴です。
六本木の国立新美術館で開催されている公募展「現展」で2013年に展示した作品はライオンと人間の合成獣(スフィンクス)です。
前年に展示した作品は山羊と人間をモチーフにした合成獣(フォーン)の兄弟です。
実はこの兄弟は私の息子たちをモデルにしています。
人型の作品を作る際に重要視しているのはリアリティです。
本当に現実世界に存在して欲しい。
その想いが作品の細部、人間と見間違うような肌や瞳の質感となって表現されています。
特にこだわっているポイントはお尻の穴です。
人形とはいえ、口があるのですからお尻の穴があるのも当然です。
小さなこだわりかもしれませんが、
人間をモデルにしている以上、絶対に譲れない箇所であり私の作品の個性として世間に認知してもらえるのです。
有難いことに子ども会や小学校の課外授業などでニードルフェルティングのワークショップをさせて貰う機会が増えてきました。
ニードルフェルティングはただ針で羊毛の塊を突付くだけですので、
針の取り扱いだけ気を付ければ子供でも簡単にチャレンジできる敷居の低さが魅力です。
また色の種類も豊富です。黄色だけでも何種類もあり、子供たちの感性を刺激します。
指を針で差して痛がっている子もいますが、自分の作品が形になってくるとテンションが上がって夢中で針を刺し続けます。
私なら15分で作れるサイズでも、初めてニードルフェルティングに挑戦する子供たちは2時間ぐらいかかります。
それでも自分自身が納得するまで止めません。
時折、子供たちには小さな人形を作って欲しいとお願いされますが、私は作り方しか教えません。
子供たち自身で作った方が気持ちが入って愛着が生まれるので、作りたいと思う気持ちの手助けをしてあげればいいのです。
ドラゴンが作りたいならば、トカゲとコウモリを組み合わせてみて本人がイメージ出来たら作らせてみる。
子供の感性と好奇心を信じて見守ることが非常に楽しく、私もインスピレーションを貰っています。
フェルトアーティスト。
フェルトアートの可能性に魅せられ、ニードルフェルティングの世界に足を踏み入れる。
リアリティさを追求する独自の作風が評価され、国立新美術館で毎年開催される「現展」にも作品が展示されている。
自分で作品を作る傍ら、ワークショップや小学校の課外授業等でニードルフェルティングの魅力を伝えている。